腋窩ブロック

Posted on 8th 6月 2011 by admin

肘関節から遠位で,術後疼痛の強い手術に用いています.解剖学的なバリエーションが大きく,各神経を同定するのが難しいことも多いです.広背筋,大円筋が見えるなるべく中枢側でブロックすることと,腋窩動脈の手前側と向こう側に薬液を注入することを心がけています.施行前によくエコーで観察し,針をどのように進めるか,特に動脈の上または下のどちらを通過させるのか,筋皮神経をブロックするかしないかなどを決めておきます.針先の描出は容易ですが,血管が多く,これらをよけながら針を進める必要があるので,やや難しい面があります.ランドマーク法で施行していた頃は,ときに静脈を穿刺することがありましたが,超音波ガイドで行うようになってからは血管の誤穿刺はほぼなくなりました.橈骨神経領域の麻酔も確実に行えるので,メリットがあると思っています.
前腕より遠位の手術では筋皮神経はブロックしていません.これは筋皮神経が肘関節付近で皮下に出て外側前腕皮神経となり,術後疼痛にほとんど関与しないためです.

穿刺針:5cmのブロック針

薬液:0.375%アナペイン20ml,筋皮神経もブロックするときは25ml

鎮痛時間:12時間

適応:肘関節形成術,置換術は術後疼痛が高度なためブロックの適応です.この場合は筋皮神経を含むすべての神経をブロックします.前腕の骨折手術では筋皮神経はブロックせず,正中と橈骨神経を確実にブロックします.母指CM関節形成術など術後疼痛のやや強い手の手術も同様にブロックします.

方法:
仰臥位で,ブロックする側の上腕を90度近く外転します.麻酔科医の位置は患者さんの頭側でも下肢側でもできますが,私はランドマーク法に慣れていたので,下肢側から行うことが多いです.このブロックでは針先を微調整する必要があるので,椅子に座って行うようにしています.座ることで,肘が固定でき,プローベや針を持つ手が安定して,気分的にも落ち着いて施行できます.

まず,リニアプローブ(depth2cm前後)を腋窩にあて,腋窩動脈を確認し,なるべく中枢側までこれを追います.広背筋腱と大円筋がみえるところを穿刺位置とします.広背筋(起始は椎骨)は大円筋(起始は肩甲骨)とともに,腋窩の後壁(後腋窩ヒダ)を形成し,上腕骨の小結節稜に付きます.腋窩の前壁(前腋窩ヒダ)は大胸筋(起始は胸骨と鎖骨で上腕骨の大結節稜に停止)です.エコーをあてると広背筋の腱が白い(高エコー性の)斜めの線となり上腕骨に向かう様子が観察できます.下図のようにここでは動脈,静脈,神経すべてが広背筋腱の上を通過していて,確実にすべての神経をブロックできます.従って穿刺部位は上腕二頭筋の上というより,大胸筋の上あたりになることが多いです.

よくエコーで観察し,動脈,静脈(数本あることが多い),神経を確認します.筋皮神経は上腕二頭筋と烏口腕筋の間に,その他は動脈周囲にあります.画面の右側が外側の時は,動脈の11時から3時付近に正中神経,5時から9時付近に橈骨神経,尺骨神経は橈骨神経のさらに内側にあることが多いです.まず正中神経を見つけ,動脈を中心に時計回りに橈骨神経,尺骨神経と探していきます.ただし,解剖学的バリエーションが多くて神経をはっきり同定できないこともあるので,あまり時間をかけすぎないようにします.神経が同定できなくても,薬液を動脈の手前と反対側に投与することでブロック効果が得られます.針をすすめる方向,動脈の向こう側に到達させる道筋を頭に描きます.筋皮神経をブロックする必要があるか否かは術式から決定しておきます.穿刺予定部位にマークをします.
ついで,消毒,局所浸潤麻酔をしてからブロック針を刺入します.

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この症例の各神経の位置を推定し,下図のように針を進める方向を決めました.

軽く圧迫を加えた状態です.穿刺するときは,この状態で行います.

ブロック中の画像です.これは橈骨骨折の手術でしたので,橈骨神経,正中神経を確実にブロックすることを心がけ,筋皮神経はブロックしません.

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術後,弱いながらも第4,5指の屈曲が若干可能だったので,尺骨神経領域の麻酔が弱かったかもしれません.術後の鎮痛効果は良好で,痛みなく追加鎮痛薬も不要でした.